2013年2月15日金曜日

ブルガリア国民投票について


2000字ほどにまとめました。
何か気になるところがございましたら教えていただけたら嬉しいです。




ブルガリアと聞いて、皆さんは何を想像するだろうか。ヨーグルトを思い浮かべる人が多いのではないだろうか。力士の琴欧洲もブルガリア出身として知られている。ブルガリアについて知っているのはそのくらいだったが「原発国民投票」が行われるということで、首都ソフィアに向かった。ブルガリアはバルカン半島の東に位置する日本の3分の1ほどの面積を持つ国で、人口は750万人ほど。2007年にEUに加盟したが、ヨーロッパ最貧国と言われていて、日本や欧米諸国に比べると総じてかなり安い。

ブルガリアは既に北部のコズロデュイに計6炉の原発を所持している。2002年に1〜4号炉は老朽化のため停止させているが、5.6号炉は現在も稼働中で計200万kw(ブルガリアの総電力の3割)を供給している。そして今、話題になっているのが、コズロデュイから東に130km先の町ベレネでの原発計画だ。前政権の野党「ブルガリア社会党」が建設を進めて来たのだが、与党の「ブルガリアの欧州における発展のための市民」は去年の3月「費用がかかりすぎる」として、ベレネ原発の中止を決めた。しかし与党は原発に反対というわけではなく、コズロデュイ原発の拡張を目論んでいるのだ。野党は「ベレネ原発計画中止」を撤回させるために77万人(人口の10.3%)に及ぶ請願署名を集めて国民投票に持ち込んだのである。そのため今回の国民投票は与野党の政争に使われているという見方もされている。

毎日ソフィア市街を歩き回っていたのだが、ポスターやチラシなど目立ったものはほとんどみつけることができなかった。ようやく投票の一週間ほど前になって、ソフィア市内でデモがあるというので直行した。近づくにつれてラッパや、フエの音が聞こえてくる。大通りなので、その横を路面電車が通り抜けていく。パトカーの青いランプも、ブルガリアの国旗も、プラカードもピエロのような変装している人もいて、見た目にもとても騒がしい。どうやらこのデモは「海や森などにリゾートを建設できる法律」に反対する人たちの集まりで、ここにいる人たちは、ほぼ全員原発にも反対しているようだ。しかし、なぜ国民投票が近いのに、原発反対のデモをやらないのかとても不思議に思うのだが、ブルガリア市民の内では国民投票より、この法律の方が緊急で関心が高いらしい。デモ後は広場に集まって海や森を売るなという気持ちを込めて「マフィア!マフィア!」と国会に向かってコールしていた。それを見て日本の官邸前抗議を思い出した。

このデモと集会をオーガナイズしたのは、ブルガリア緑の党の共同議長ボリスラフ・サンドフさん。彼曰く、もう何度も今回のようなデモをやっていて、始めは800人程だったが最終的には5000人くらいになって交差点をデモ隊で閉鎖したりして、話題を作り、首相の決定にも影響を与えている。「フクシマの事故のことは皆さん知っていますか?」と聞くと「事故が起きた時は一斉に報道されたが、今はもうフクシマの影響を忘れてしまっている人も多い。そして、もうすぐ二年が経とうとしているが、今のフクシマの現状を知る由もない。チェルノブイリやスリーマイルのように風化していっている。それに対して、推進派は問題点を棚にあげて、原発は安い、安全、生き残る道だと言い続けている。」という。

「新しい原発でブルガリアの原子力発電を発展させますか?」という設問に対しての国民投票の結果が発表された。投票率は20.2%、賛成が60.6%、反対が38.0%であった。前回の総選挙の投票人数に及ばなかったため法的拘束力は持たないが、20%を超えたため国民投票の結果が議会にかけられることになる。しかしどうしてこんなにも投票率が低くなってしまったのだろうか。それはどっちに投票しても原発政策は進められるからだ。今回のような与野党の攻防は今に始まったわけではなく、このような政争に辟易しているのだ。そして投票しようにも情報が少なすぎて、投票できないという声も聞いた。実際に街頭アンケートでも「今回の原発国民投票に反対」と答えた27人のうち19人は「もっと情報が行き渡ってから実施すべき。」を理由にあげている。経済の専門家ジョージ・ストエフさんはこの設問自体に疑問を呈している。「賛成と答えた人たちは自分たちがお金を出すと思っていない。でもブルガリア政府が出資するということは国民が払うということなのだ。」とした上で設問を「あなたは原子力発電所に出資する余裕がありますか」にするべきだったと話す。

結果として原発反対派は負けてしまったわけだが、この結果を悔やんでばかりではない。伝統的な原発推進のブルガリアで、反対派の意見が求められたり、議論されたりしたことは、国民投票がなければ起こらなかったからだ。「5年前、ブルガリアで原発に反対している人はたった10%だったが、少しずつ反対派が増え、今回は38%に届くほどだ。原発推進40年の洗脳が少しずつ解け始めている。」と環境NGOに務めるゲナディさんは希望を語った。