2014年8月12日火曜日

三重県伊賀市住民投票レポート

九州からヒッチハイクを乗り継いで三重県の伊賀市にやってきた。

伊賀上野城
伊賀と言えば「忍者」
なるほど、町には忍者のキャラクターの描かれた看板や手裏剣のイラストがいたる所で見られる。さすが伊賀忍者発祥の地、姿を現していない忍者も含めたら相当数の忍者がいると思われる。



何について問われているのか

さて今回の住民投票は、老朽化した市庁舎を、「現在地の市庁舎を改修して使うか、新しいところに新築するのか」が問われている。そして、今回とても重要なのが投票率。今回は投票率が50%に満たなければ開票されない、ということが決まっているので「どちらに軍配が上がるか」と共に「投票率が50%を超えるか」についても大変注目されている。



投票資格は日本国籍の20歳以上の伊賀市民のみで、伊賀市民であっても未成年者や永住外国人には投票権がない、いわゆる通常の選挙と同じ有権者によって行われる。(住民投票では選挙とは違い、神奈川県大和市のように永住外国人や16歳以上の未成年者にも投票権を認めている自治体も多い)

現庁舎は築50年近くが経過し老朽化が進んでおり、また2004年に6市町村が合併したことにも伴い、本庁業務を複数の施設に分散せざるを得なくなっており、市民にとって不便で、業務の非効率化の原因になってしまっている。そのため新しい市庁舎が必要なのだ。 2012年より岡本栄新市長となり、201312月に市庁舎の場所を「新しい場所に新築(三重県伊賀庁舎隣接地)」に決定。
 しかし、市庁舎の移転に反対する現在地派の市民が、庁舎位置を問う住民投票の実施を求めて約7千人分の署名簿を提出したが、書類不備により無効となった。その後、現在地を推す市民団体(伊賀市役所庁舎整備を考える市民の会)から、5月に住民投票条例制定の要望書が市長および市議会議長に提出された。 市として、庁舎は「三重県伊賀庁舎隣接地に新設」とする方針を示しているが、住民投票条例制定を求め署名した約7千人の市民の思いをくみ取らず、このまま議論もされず次の段階に進むことは問題があることから、議会に「伊賀市庁舎整備に関する住民投票条例」を上程、そして可決され住民投票を実施することが決まった。

「伊賀市庁舎整備に関する住民投票広報」より抜粋

老朽化が進んでいる現在の伊賀市庁舎

まずは、現在地派の上野商工会議所の事務局長である川端晋哉さんにお話を伺った。


「私たちが訴えたいのは市庁舎の移転はコンパクトシティ理念に反する政策だということ。そして移転するためには、現在地の改修よりも多額の費用が必要だということです。しかし何よりもまず市の条例で決まっている50%を超えなければ話になりません。市議会議員選挙で70%、市長選挙で60%なので今回の最低投票率は50%はかなり厳しいと見ています。しかし仮に20%の投票率でこれが市民の意見なのか?と言われると疑問が残りますが、いざ仕掛ける側から考えると本音としてはもっと条件を緩くしてほしいと思います。でもいずれにしても伊賀市では住民投票の前例がないので、まずやってみないことには何とも言えません。説明会などを各地で行っていますが、私たちの主張はもちろんしますけれども、まず投票に行ってくださいと呼びかけることが同じ位か、それ以上に重要になっています。それは移転を考えている市側も一緒の思いで取り組んでいます。」

伊賀市は、市役所、交通機能センター商工会議所観光協会等の機能センターを中心市街地に集め、国や県の支援を得ながら公共ビルの建設や、駅前駐車場の整備などを官民協力して、町づくりを進めてきていた。
伊賀市自治基本条例 202項による。

次に市役所を訪ねて、管財課の森口さんと総務課の岡井さんにも住民投票の概要についてお聞きしたところによると、今回の住民投票にかかる予算は3750万円、有権者数は76736人。今回の最低投票率50%を超えるために市で行っていることについて伺った。
「投票率を上げるためにのぼりを作ってたてたり、伊賀鉄道、近鉄、JRなどにも協力してもらってポスターを掲示しています。また各地で説明会を開いたり、チラシを全戸配布したり、公用車に投票日を告知するマグネットを貼って宣伝したりしています。また夏の暑い時期ということで今回はうちわも作りました。」


公用車に貼られているポスター


投票日が大きく印刷されたうちわをいただいたので、早速リュックサックに括り付けて、伊賀市内を移動しつつ、広報活動をさせてもらうことにした。


各地区の人たちの反応

上野駅周辺の人は「現在地の方がよい」という意見を明確に持っている印象であった。
「車で行かなければならなくなって不便である」「中心地のにぎわいがなくなる」等

一方移転先の四十九町近辺の人に聞くと、
「近くなって便利になるから賛成かなぁ。」などはっきりではないが移転には賛成の様子。

その他の地域に行くと、
「まだ決めていない」「正直なところどっちでもいい」
というような傾向があった。

また個人商店やお料理屋さんなどの商売をしている人は
「お客さんにはいろんな立場の人がいるから答えられない」と話自体を断られた。

市の中心地である旧上野市の人たちには関心がある話題だが、他の地域に行くと関心は薄れていく。市庁舎がどっちにあっても大して変わらないし、そもそも市庁舎に行く機会も滅多にないという声も聞いた。

市や商工会議所のPRの成果もあってか、住民投票があることを知らないという人には、ほとんど出会わなかったが、市全体としての関心はまだまだ高まっているとは言えないだろう。


市の広報ポスター

連日行われている説明会

現在地派の説明会日程表

夕方は現在地派、移転派、両派の説明会が連日行われている。

731日の19:30
島ヶ原の公民館で行われた移転派の説明会に参加した。
中心地の伊賀上野から、山を一つ越えたところにある集落での説明会であった。


参加者からの質問に耳を傾ける岡本市長


参加者は46人で用意されていた椅子では間に合わないほどであった。
ただその中には市の職員らしき人も数人含まれている。

市は、移転派でありながら、同時に住民投票の執行者でもあるために、体面は中立を保とうとしているのか、なんだかやりづらい様子。全戸配布された冊子をもとに現在地派の意見と移転派の意見を両方紹介していた。


移転先周辺の様子 四十九町


しかし説明会には毎回市長も参加しており直接、移転ビジョンの経緯と計画を熱く語っていた。元関西テレビのアナウンサーだった岡本栄市長は誰もがテレビで一度は見たことのあるのだそうだ。なるほど、市長の話はわかりやすかった。現在地派は上野丸之内についての話が主であったが、市長はあくまで伊賀市全体の今後の利益を考えた移転計画という話をされた。「市庁舎の一件が落ち着くまでは市長としての責任を全うするつもりだ。」と続投を示唆する発言もあった。


81日。今度は現在地派の説明会を聞くために前田教育会館に伺った。
広い会場に参加者は30名ほど。


伊賀市役所庁舎整備を考える市民の会 代表の木津会頭


代表の木津会頭は冒頭から「岡本市長は移転計画を強引に進めてきた。これはリスクの高い構想である。」と切り出し、岡本市長のように饒舌ではないが、移転計画に対して予算のこと、計画のあいまいさなど、移転派の主張に一つひとつ丁寧に反論を重ねていった。2時間は少し長過ぎるのではないかと思ったが、質疑応答も含めて時間ギリギリまで説明会は続いた。

今回の住民投票はとてもわかりづらい

岡本市長は住民投票の結果について「尊重する」ではなく「参考とする」というにとどめているので、移転派の市長が結果をきちんと受け止めるのかに疑問が残る。

また別の問題として、地方自治法により市庁舎の移転には議会の3分の2以上の賛成が必要と定められている。そのため、もし住民投票で移転派が多くても、3分の2の議員が賛成しなければ移転をすることができない。地方自治法4条3項より

また投票率が50%を下回った場合、市長は移転計画を議会に提出することが見込まれ、
結局最後は議員の3分の2が賛成に回るかどうかが注視されることになるだろう。

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50%条項の妥当性について

市長選や議会選挙が、投票率が低いからといって再投票や無効になることはない。20%台であってもそれが市民の民意として市長や、議員が選ばれる。しかし、どうして住民投票では50%を超えなければ民意として認められないのだろうか。質問なども「50%を越えなかったらどうするのか」が、まずあがってくるるのだ。これは全く、今回の住民投票の議論の本質ではないのだが、成立要件であるために投票率が「とても重要な話」になってしまっているのだ。

岡本市長に50%条項について質問したのだが、20%や30%では民意が反映されているとは言えない」という応えだった。そもそも伊賀市の住民自治基本条例で50%が定められているのは知っているが、僕は「自治体の憲法」と呼ばれる住民自治基本条例を改正してでも、「住民投票をやる」と決めたのなら潔く市長も議会も「投票率に関わらず(たとえ5%だったとしても)、一票でも多い案に従う」とするべきだったと思う。

昨年、北本市で「新駅の建設について」を住民投票にかけた石津市長のように投票率に関わらず開票することを事前に公表し「(賛否の)一票でも上回った方に従う。それが民主主義のルールだ」と言えないのだろうか。

伊賀市のように形式として住民投票の形をとってはいるが、実際の決定権は議会が握っているようでは、市民の関心が高まらなくても当然ではないだろうか。実際に北本市の住民投票では、住民投票の効力が明確なだけに市民の関心も高まり投票率は市長選の53%を上回る62%にも上った。



自分の主義主張を語ることはなにかやましいことなのだろうか。

そして主義主張が人間関係や商売に影響してしまうことを理由に、語らないことが優先されるという現実。語らない人たち個々人にどうこう言うつもりはないが「角が立つ」という理由で口をつぐんでいては深まる議論も深まらない。
例えば9月に行われるスコットランドの独立をかけた住民投票を前にして著名な芸能人も続々と意見表明をしている。
映画「007」のショーンコネリーは独立に賛成。
ローリングストーンズのミックジャガーは独立に反対。
など堂々と主義主張を表している。

自分の主義主張を語ることはなにかやましいことなのだろうか。

道を歩いている人に、住民投票について聞こうとすると断られたりする。
確かに突然、道ばたで声をかけられたら驚くのは当然かもしれないが、
「しゃべれません」と言われると、何か自分が悪いことをしているのではないかと思ってしまう。(もちろん断る権利を否定している訳ではない)

しゃべることに何を恐れているのだろうか。人間関係や、商売が主義主張を語ることによって崩れてしまうことを恐れているのだろうか。自分の主義主張を語らずに「本当の」人間関係や商売が成り立つのだろうか。主義主張を語ることで崩れてしまうような人間関係や、商売だったら所詮そこまでの関係だったということである。

自由な投票運動が認められているはずなのに…

「広報いが市」にはこう書かれている。
「投票運動は自由としますが、次のようなことは行わないでください。 ○買収、脅迫など市民の自由な意思が拘束されたり、不当に干渉されたりするような行為 ○早朝・深夜の時間帯や必要以上の大音量による勧誘行為によって市民の平穏な生活環境が侵害されるような行為」
これはほとんど制限がないに等しいのだが、実際の選挙の延長のような広報しかされていないのが少し残念ではある。市長選の時には「伊賀市長選挙に伴う ローカルマニフェスト型公開討論会」が行われていた模様である。

後日、朝日新聞の燧記者から連絡をいただいたところによると、現在地派の木津会頭が移転派の市の説明会に乗り込み、討論になったという話を聞いて少し嬉しくなった。



最後に言いたいのは、ただ一つ。

「住民投票」が行われることをとても嬉しく思う。いろいろと今回の伊賀市の住民投票について意見を述べてきた。それだけ個人的には気になるところがあったのだが、やはり住民投票はすばらしい制度だと思う。いつも述べていることだが「住民投票の本質は多数決ではない。」ということ。市民一人ひとりが情報を得て、議論し、選択する。その過程で自分の地域について考え、自然に愛着を感じるようになる。相手の主張を聞き、自分の主張を伝える力がつき、投票の結果にも責任が持つようになる。

僕はまだ、残念ながら住民投票を経験したことがない。きっと日本人のほとんどがまだ経験してないのではないだろうか。僕は伊賀市民がとてもうらやましい。

伊賀市民は今!この直接民主主義の大きな可能性と力を活かすチャンスがあるのだ。棄権も一つの意思表示ではあるが、ぜひ伊賀市民にはこのチャンスを活かして頂き、投票に行ってほしいと、僕は埼玉の僻地から願っている。

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独立をかけた住民投票が行われるスコットランドへの渡航も一ヶ月を切りました。
クラウドファンディングも残り16日…ご支援よろしくお願いします。
https://readyfor.jp/projects/Scotland-Referendum